ケーキにソースをかけて食べる祖母にびっくりした思い出

認知症という言葉がまだ無い頃、当時小学校4年生の私は、祖母の突然の変化にとまどった事を思い出します。毎年季節ごとに祖母は父の兄、姉である叔父、叔母の家をかわりばんこに泊まり歩くのが好きな人でした。

私は祖母が来るといつも駅まで母と迎えに行き、お土産をもらうのを楽しみにしていました。でも、その年の来訪は、いつもとどこか違ったものになっていました。どこかぼんやりとした表情と、物忘れのひどさ、お土産も無く、何だか一回り小さくなったような印象でした。

何泊目かで、祖母が驚くような行動をしたのを、今もはっきりと覚えています。秋から冬の季節でしたが、母がケーキを買って帰って来て、家族で食べようとした時です。食卓に置いてあったウスターソースをドボドボとショートケーキにかけたのでした。

「おばあちゃん、何するの?」祖母の行動を理解できない私は、ビックリして大きな声を出し、ぼうぜんとしてしまいました。

でも、少しして母は落ち着いた声で言いました。「おばあちゃん、味が薄かったのよね?」母がソースを減らしてケーキを祖母に渡し、祖母はニコニコと笑って、おいしそうにそのソース味のケーキを食べました。

私はショックで、母に小さい声で聞きました。「おばあちゃん、どうしちゃったの?」すると母は、「年を取ると、色んな事をやってみたくなる赤ちゃんに戻るのよ。」そう言いました。翌日、祖母をかかりつけの医者にみせると、今で言う認知症、と診断を受けました。

認知症は、家族の協力や周囲の理解があると、受け入れる側も心構えができますが、身近に感じる家族の変化をすぐにキャッチできる環境が大切だと、私は感じています。