私の祖母が認知症になった時の体験談をさせていただきます。まず初めに認知症の疑いを持った第一段階は、ご飯を食べて数分後に「ご飯はまだなの?」と聞いてきたことです。この時は今食べたということを説明すると思い出すレベルのものだったので、家族も高齢だしうっかり忘れることもあるか、と危機感はありませんでした。
次に疑いを持ったのは、金銭のやり取りや感覚がおかしくなったことです。具体的に言いますと、簡単な計算が出来なくなったり、どこに財布を置いたのか分からなくなる、誰かにお金を盗られるのではないかと疑り深くなるといったものです。
特に私の祖母の場合は、この「疑り深くなる」という被害妄想が顕著に表れました。突然豹変したように怒り出す祖母に私たち家族は、戸惑いと不安、理不尽さに多少の怒りを持ってしまいました。この時はまだ、身内がまさか認知症だとは夢にも思わなかったからです。
決定打となった出来事は、ある日祖母が薄暗い部屋の中でひとりボーッと鬱状態のように、俯いているのを発見した時でした。いよいよこれはおかしいと、この段階になってやっと私たちは祖母を病院に連れて行くことにしました。
そこで医師から祖母が認知症であると告げられたのです。いま思い返すと、日常の些細な中に警告はいくつもあって、認知症の知識があればもっと早くに気づけたのではないかと思います。皆さんの中にも「最近忘れっぽくなっちゃって」と簡単に考えてる方は多いのではないでしょうか。
もしかしたらそれが認知症の初期段階の可能性であるということを、知識としてだけでも知っておいてほしいです。幸運にも祖母の場合は高齢者ということもありまして、若年性認知症と違い、病気の進行速度が遅かったこともあり、手遅れの段階にはならなかったです。
勿論若年性じゃないからといって、進行速度が遅いとも限りません。医師が言うには、その人の生活環境や体の状態でも変わってくるそうです。私たち家族はどちらかというと騒がしく賑やかな家庭でしたので、それが病気の進行を遅らせるのに一番効果的だったのではないかと思います。
この認知症というのは、未だに確実な予防法がない病気として人々に恐れられています。確実な予防法ではありませんが、その中でも「頭を使う」「生活習慣を規則正しくする」などといった予防法はよく聞くかと思います。しかし、私たちが実際に行なったことは違います。
簡単なことかもしれませんが、とにかく祖母と会話をする、ひとりっきりにさせないといったものです。「聞く・話す・理解する・判断する・記憶する」、この全てが「会話」の中には含まれています。これほど効果的でいて、長く続けられる治療法はないと言っても過言ではないのでしょうか。
実際に祖母は亡くなるまで、私たちの顔も名前も思い出も忘れることなく、最高の形で天寿を全うしました。私たちや祖母の友人・知人も、祖母が認知症であると知った時には驚いていました。それは悲しみからの驚きではなく、あまりにも普通の生活をしていた祖母が、まさか認知症だとは思わなかったことへの驚きでした。
以上のことから、認知症に一番効果的な予防法・治療法は「他者とのコミュニケーションを常に欠かさないこと」だと思います。あくまでも私の体験談ですので、必ずしもこれが正しいというわけではありませんが、自身や周りに認知症でお悩みの方がいらっしゃいましたら、是非一度お試しください。